塩屋のグレーゾーン|森本アリ(旧グッゲンハイム邸)

2022.09.08

 法的にギリギリ、アウトかセーフ、そんな事柄に使われる言葉「グレーゾーン」。
塩屋の場合、空間的な「グレーゾーン」がとても多い。そもそも、普通に歩いている道のほとんどが私道で生活道。険しい坂道集落は大抵、道の半分を左右の家が片側ずつ所有し、 道に関係する工事が自治会や個人負担になる場合も多い。だから道がつぎはぎだらけだ。 塩屋は駅前商店街だって私道だ。そして、その商店街のハイライトである田仲豆腐店前には田仲さんの故郷、沖永良部島の亜熱帯が出現する。
塩屋には歩道がない。道の細さゆえ、 歩車分離ならぬ歩車融合、さらには歩行者優勢道路がそのほとんどだ。そんな、車よりも人の方が偉そうに歩く道には突然、椅子が出現し、塀やフェンスが物や植物によってギャラリー化する。
年に何度か塩屋や旧グッゲンハイム邸での試みを紹介するために他の町に呼ばれる。 塩屋のことを聞きたいというぐらいだから、その町は大抵とても面白い。宿泊での遠征になるとぼくは早朝から探索し、面白かった事柄を町の人に説明する。すると、ことごとく、あれは実は違法で……と返される。旧グッゲンハイム邸は築百年以上。今の建築法規に合わないことはいっぱいある。それでも震災を耐え、今でもたくましく建っている。そしてデザインも空間もそこらへんの新築より優れている。今の尺度に合わないということを「既存不適格」という。「実は違法で」のほとんどは既存不適格だ。塩屋の道のほとんども既存不適格。
全てが適格な町にもたまに訪れることがある。新興住宅地と呼ばれるところだったりする。 道も家も庭も適格。探索する気も起こらない。そして、思う。「白黒はっきりしてんじゃねーよ」 。
「グレーゾーンは、おもいやりゾーン」。この言葉は、灘の伝道師=ナディスト、慈憲一さんにお願いした灘のまちあるき中に慈さんから発せられた言葉。確かに灘を探索すると住宅地に土の道が多く残っていることに驚く。そして道や市場内には、溢れ出す個性豊かな造形が多い。
田仲豆腐店の裏側はワンダーランドだ。いろいろな拾得物が所狭しと積んである。流木もいっぱいある。一見ゴミ屋敷だが、よーく見ると細やかに整理されている。引っ越してきて何か足りない時は、一声掛ければ洗濯機だって電子レンジだって出てくる。彼の造形物が、カーブミラー、ベンチ、遊具として、人を喜ばすために町の中に溢れている。 塩屋はディテールの豊富な町だ。塩屋はこれからもグレーゾーンを攻めつづける。「グレーゾーンは、おもいやりゾーン」。新しい田仲盛秀作の造形物を見つけると嬉しくなる。田仲さん、これからもよろしくお願いします!住人一同楽しみにしております。