塩屋の道ばた|山森彩(ユブネ)

2022.09.08

写真:片岡杏子

 塩屋に引っ越してきてすぐの頃、「今からお茶するねんけど、どう?」と誘ってもらい、理容キタガワの先代、北川静代さん(しーちゃん)とお茶をした。「徹公の部屋」の帰り道だったと思う。しーちゃんの〝離れ〟にて、リプトンの青缶から茶葉を取り出しエバミルクを注いでロイヤルミルクティーを淹れてくれたのは西村寿恵美さん。なにを話したのか覚えていなけれど他愛ないおしゃべりが盛り上がって、友だちができたなぁと思った記憶がある。私が仕事で塩屋に来た2015年頃は、駅前のコミュニティストアからミニコープまでのわずか200mほどの間に、寄り道しておしゃべりするお店がいくつかあった。商店会の事務局員をしていたから、なんだろうけど。そのうちの1つが、2016年に閉店した「林フルーツ」。店の山側の壁一面には大きな鏡が貼ってあって、店番をしているおばちゃんと、店に差しかかる前に目があう。おばちゃんはそこから動かずに気が向いたら声をかけてくれて、お菓子や売り物のみかんをくれる。だいたい「あんた仕事は何してんのん?」「彼氏はおんの?」「ほんで、いつ結婚すんの?」と質問攻め。夕方になると店番はおっちゃんに交代。相撲や野球のシーズンになるとテレビに向かってヤジを飛ばしていたものだ。「田仲とうふ店」を過ぎたら「和田生花店・なっとく専科和田」。今は駐輪場になっている。店の前には地域猫・ナンデスの家があった。ちなみにナンデスの命名者はこの和田さんである。こないだ偶然道ばたで出会い、直接確認をしたから間違いない。(はずなのだが、「ナンダス」説も浮上中。)和田さんは商店会の理事もしていて、なんというか、厳しくも優しい人で、界隈の人なら一度は叱られたことがあると思う。私も例に漏れず叱られていたけれど、ピンチの時に助けてもらったこともある。店の奥にレジ横に座って、花の世話をするおっちゃんと時々からみながら、緑茶とお菓子をいただいたものである。誰かのうわさ話、あるいはおばちゃんが料亭を切り盛りしていた時代の話。ちなみに和田さんはコンパニオンを派遣する仕事もしていて、光栄にも「あんたバイトせーへんか?」と誘っていただいたことがあるが、あの時は断る理由を必死に探した。ちなみコロナのせいなのか、今は(おそらく一時的に)ないけれど、コープ前のベンチもアイスを食べるのに重宝するし、ミニトマトとアキラッチ(現在は駅前に移転)の前の道ばたは世代を問わず主婦たちの立ち話スポット。道を歩いていたら必ずと言っていいほど知り合いに会うもんだから、一人でいたい気分のときは、塩屋のこの〝町中がリビング〟みたいな距離感がしんどいなぁと思うこともあった。でも、うっとうしいんだけど、それ以上に妙な居心地のよさがあって。立場変われど変わらん関係性に甘えて、なんやかんや言いながら、この町に暮らし続けている。