塩屋の友達|筒井大介(リトルレンズ文芸舎)

2023.01.21

 自宅から塩屋まで電車で1時間弱。元町駅で阪神電車からJRに乗り換えるとき、塩屋の一駅手前の須磨止まりがきたらちょっと残念、1発で辿り着ける西明石行きがきたらラッキー。そんな微妙な距離の場所まで、月に1回とか2回とか3回とか(たまに4回)遊びに行く関係になぜかなってしまった。
神戸に引っ越してきてから10年くらいは、旧グッゲンハイム邸(以下「グ邸」)へライブを観に行くくらいだったのだけど、2019年、塩屋に古い民家を購入した友達に、改修作業に誘われたところから変化が生まれた。その物件は駅から商店街を抜けて5分と少し坂を登ったところにあって、川を挟んで真前に塩屋小学校が見える。そこが何になるのかよく分からないまま改修は始まって、とりあえずみんなで壁を壊し、天井を破り、屋根に登って瓦をおろし、ゴミを捨て、難しいところはプロにまかせて、壁を貼って、すっきり抜けの良くなった空間にチョコレート屋さんが入居。そのチョコレート屋さんは、Bean to Barと呼ばれるこだわりの手作りチョコレート(美味しい)の販売と、カフェ営業もしていて、数少ない、というか唯一の、ふらっとお茶しにいく顔なじみの店になったのだ。店主がやたらイベントやポップアップショップをやる人で、古本市への出店をぼちぼちしていた私にも声がかかり、お店の横の空地で、本をメインにした小さな文化祭を友達と一緒に企画、シオヤプロジェクトにも出店してもらった。確かこのタイミングでグ邸管理人の森本アリさんに、塩屋小学校をモデルにした月曜日の友達という漫画があると教えてもらった気がする。後日読んでみると、確かにページを開いた瞬間、ここがそれ(漫画では中学校)だと分かる。そして、さらにページをめくっていくと、漫画とはこんなにきらめきを表現できるものだったのかと衝撃を受け、読みながら「おぉぉ」と声が出た。裏手に建つ特徴的な蜂の巣型校舎(なんとかして中を見学できないかと常々思っている)は漫画では再現されておらず、一方で、丘の上の団地はちゃんと存在しているのだなと、描写の取捨も楽しめる。この学校を舞台に、主人公のちょっと変な中学生が、もっと変な同級生と友達になって…、そういえば、塩屋に行くと、特に目的もなく古民家を買ってしまった件の人や、そこでチョコレート屋さんを始めた人、それからもちろんグ邸まわりの人たちなど、大人になっても変な友達にたくさん会う気がする。…あ、自分もそうなのか。なるほど。