記録|シオヤプロジェクトの勝手にまち探訪 vol.51 芦屋川編

2023.11.17

阪急芦屋川駅北広場に集合。駅の北に架かる桜橋を渡り芦屋川左岸へ。振り返ると、現在の橋の下手に先代の橋脚が残っている。撤去するのが忍びないのだろうか。坂を下り交差点を渡ると、アーケードの掛かった向かい合わせの長屋。出自は不明だが、アーケード入り口のステンドグラスや壁の意匠がエレガントだ。カフェや揚げパンのお店が入っており、しっかりと生きている。ここから古い集落である東芦屋町で路地と坂、そして丁寧に作られた石垣などを楽しむ。この日はまち歩きにもってこいの気候で調子よく歩ける。とある家の石垣に、かつてこの地域で精米や製粉に使われた石臼が埋め込まれている。この石臼も捨てるのが忍びなかったのだろうか。働き者の臼がのんびり余生を過ごしていると見るか、家を守る永遠の仕事を与えられていると見るか。フランク・ロイド・ライト設計の旧山邑邸を横目に開森橋を渡り、右岸のハイキング道で高座の滝へ。何故か砂時計のように中程が狭くなっている私橋、妙にモダニズム感のあるコンクリートブロック造の簡素な建物、水抜き口が顔に見える砂防ダムなど、道中で挟み込もうと用意していた小ネタを、紹介する前にことごとく見つけていくシオヤプロジェクトの小山さん。
高座の滝は六甲山への登山口の1つで、登山道の脇にひっそりと毎日登山(六甲山各所で行われている登山運動)の記録表が設置されている。記録を拝見すると1万回が射程に入っている方もおられ、是非達成していただきたいと勝手にエールを送っておいた。この場所は近所の方が品のいい犬を連れて散歩に訪れ、おでんが有名な滝の茶屋、洞穴で週末営業するシェアキッチン、廃業した大谷茶屋を引き継ぎ活用しようとするプロジェクトがあり、滝の手前に建つ旅館で、テクノヶ丘というコアな音楽イベントも開催される、まちと山の間で人がひと時たまる、遊びのある場所だ。
ハイキング道を引き返し、山芦屋町・三条町辺りの山手の住宅地をぶらつく。開放的なプライベートリバーサイドテラス(いい感じのひとんちの庭)やモダンレトロアパート(いい塩梅に古い集合住宅)を通り過ぎ、坂をいくつか上り下りしつつ水平方向の地形に沿ったカーブを進むと、海側への視界が開ける階段に出会う。大阪湾に注ぐ芦屋川の河口が彼方に見える。今日はあそこまで歩くのだ。階段を降りて視線を足下に移すと、芦屋市の市章のマンホールと、神戸市水道局の六剣水マークのマンホールが隣合っている。芦屋市と神戸市の市境のせめぎ合いである。市境に沿って阪急線付近まで一気に下る。芦屋の旧集落西側、狭く曲がった路地や、江戸時代からの家屋が残る。さらに時代を遡る古代の寺院跡と推察される道も存在する。その道角は壁を割って伸びる樹木や、大阪城の石垣になり損ねた「残念石」と呼ばれる石材を部材としている塀、私道であることを主張するDIY路面標示など、意図と成り行きが錯綜して醸成される、まちの地層露出スポットだ。阪急芦屋川駅北側の山手サンモール商店街は、歩道に敷かれた花型のインターロッキングが可愛らしい。かつては「水道路(みち)の商店街」と呼ばれた、約100年前に千苅ダムを水源として引かれた神戸水道の上にできた商店街だ。神戸市東灘区の岡本商店街や灘区の水道筋商店街は、同じ成り立ちを持つ兄弟と言える。
阪急線を南に超え、芦屋川に沿って歩いていく。住宅地でも川沿いの道でも、芦屋を歩いていると、壁から道から立派な樹木(松が多い)がニョキニョキと生えている光景に出会う。通行の邪魔ではあるのだが、樹木もこのまちの大事な一部なのだろう。10年ほど前に阪神間のバイパスとして開通した山手幹線は、芦屋川の下を潜っている。このトンネルの人道の脇に、ゴンドラ型の斜行エレベータが設置されているのだが、あまりにもスピードが遅い。主に車椅子の方のために設置されたと思われるが、バリアフリーとは。そこから程なくしてJR線が芦屋川の下を潜って交差する。こちらの隧道は約150年前に初代が竣工、100年前に改築された。この辺りから芦屋川の特徴的な都市景観が現れてくる。左岸は市民ホール、税務署、警察、公園、市役所などが並ぶ公的なエリアとなっており、反対の右岸は個人の邸宅が並ぶ。芦屋川は天井川となっており水害が起こりやすい。芦屋市の前身である精道村時代に治水のために土手の造成が行われた。右岸の住宅地開発で村に収益をもたらし、左岸の公的なエリアを整備したのだろう。造成地の高低差を味わいながら、2号線、阪神線、43号線を超え、海に近づいていく。松浜公園付近の河原を歩くと、2020年に芦屋市立美術博物館が企画した移動型の音楽会を思い出す。ススキが茂る秋の芦屋川で、イヤホンをつけ現代音楽家によって演奏される音を探して歩く非日常な音楽会の参加者たちと、いつのものように散歩やランニングを楽しむ市民が、それぞれパラレルな世界に存在していて、2つの世界が重なったり別れたりしているような、少し奇妙で特別な体験だった。下流になると川の水量はどんどんと減っていく。地下に浸み込み伏流水となって海に注いでいるそうだ。この日はいつもよりは水かさがあり、海と川の切り取り線のような飛び石を踏み外さないように渡り、左岸の砂浜へ。目前には埋め立て島、その隙間から海が広がり「着いたな」という感触がある。神戸市側の倉庫群と芦屋市側の住宅地の対比が印象的だ。参加者銘々でまち歩きの終着地をしばし噛み締めていると、そのうち一人が「寿司…?」と砂浜の一点を指差す。皆の視線が集まる。砂浜にぽつんと海老のお寿司が漂着していた。

文 筒井大介 写真 森本アリ(2023年11月)

INFORMATION

50回に渡って神戸の主に山際と海沿いの小さな「まち」、何もないと言われがちな住宅地や密集市街地を7時間掛けてくまなく?ぶらぶら?まちあるきしてきた、「シオヤプロジェクトの勝手にまち探訪」が6年目、越境することにしました。まずはお隣の芦屋市「芦屋川」編。「しおや」か「あしや」か問題。芦屋は全く気にも掛けていないと思う(笑)。実は名前が似ている2つのまち。同じように別荘地文化が栄えた時代があるが、全然規模が違う。芦屋は今でもリッパな街、塩屋は海と山に挟まれた小さな谷間の町。「あしや>しおや」。とはいえ、古老に話を聞くと「昔は東の芦屋、西の塩屋言われたもんやでー」という言葉が出ることがある。いつの話やねん、名前が似とるだけやん、と思うでしょ。いざ確かめに行こうではないか。案内人は、灘区在住芦屋勤務の傍ら、面白そうな町系の企画には大抵居る人。そして、重度のまちあるき中毒の人、「ウロウロ〜カル」の中の人として、余暇をまちあるきに費やす筒井さん。筒井さんが案内するリッパすぎて躊躇する芦屋探訪。芦屋川の山際から海沿いまでを存分に楽しもう。

案内人 :筒井大介(つついだいすけ)さん

日  時:2023年4月28日(金) 10:00集合 17:00頃解散
集合場所:阪急芦屋川駅北広場集合
探索場所:芦屋川沿いエリア(東芦屋町、山芦屋町、三条町、西山町、浜芦屋町、松浜町、伊勢町)
料  金:500円

主催:シオヤプロジェクト
令和5年度 神戸市・まちの再生・活性化に寄与する文化芸術創造支援助成対象事業

 予約・お問い合わせ:塩屋百景事務局

TEL:078-220-3924 E-mail:info@shiopro.net
※前日までにご予約ください。
※ご参加日、お名前、電話番号、参加人数をご連絡ください。
メールの場合はこちらからの返信をもって予約完了とさせていただきます。


筒井大介
1981年岐阜市生まれ。大学進学のため関西へ。2007年に芦屋市役所への就職を機に神戸に引越し。今は灘区在住。2016年にまちの写真を投稿するインスタを始め、学生時代に育んだ団地・路上観察趣味と融合してズブズブとまち歩きの沼にハマる。最近はまちへの偏愛肯定系NPOファンローカルの一員として、まち歩き「ウロウロ〜カル」を企画。その他、リトルレンズ文芸舎と名乗り一箱古本市への出店や、まちにこたつを出現させる遊び「流しのこたつ」など、予定詰め込み過ぎの余暇を楽しんでいる。