阿房列車は第二だけが塩屋文学。

2023.11.11

何事につけ不満の多い内田百閒が、塩屋について書いていると知ったときはヒヤヒヤしたが、「私は須磨や塩屋垂水の海の色、舞子の松を車窓から眺めるのを、いつもあの辺りを通る時の楽しみにしている」とあって、肯定的なことにほっとした直後、「けれど、寝起きの悪い目には絶景も却ってうるさい」とあり、やはり一筋縄ではいかない。

西へ向かう列車の車窓の景色の賛美では『暗夜行路』とさして代わり映えしない、通り過ぎる町、塩屋。塩屋垂水とひとまとめにされてしまっている点も、どんぐりの背比べかもしれないが、須磨舞子と差をつけられているようで口惜しい。

塩屋が出てくるのが、『第二阿房列車』だったか、『第三阿房列車』だったか定かでなくて、『第一阿房列車』も合わせて全部購入して探した身にもなってほしい。

とはいえ、「海」ではなく「海の色」と書くあたりは評価したい。実際、塩屋の海の色は季節毎、月毎、日毎、時間毎の変化に富んでいて見飽きない。『第二阿房列車』の初版の出版は1953年。内田百閒の乗った頃の鉄道は、須磨〜垂水間は本当に海の際を走っていて、映画『張込み』(松本清張原作・橋本忍脚色・野村芳太郎監督 1958年 松竹映画)の冒頭の海沿いを疾走する機関車のシーンが思い出される。映画は白黒なので、「海の色」はわからないが、その頃の車窓に見えた海景はこれに近いものだったのだろう。