海外文学でも塩屋が出てきたらそれは塩屋文学 Yes! Oversea Shioya Litterature

2023.11.11

A Friend In Need『困ったときの友』(1925)世界に名だたる近代英文学の作家、サマセット・モームの短編である。まずは、10分ほどの朗読を英語のオーディブルでお探しいただいての一聴をおすすめしたい。人は見かけでは判断しづらいという話で、二人の男の対話の中にKobeやShioya、Tarumiといった地名が聞き取れる。

カードゲームで全財産をすってしまった自堕落な男の仕事が欲しいという要求に対して、塩屋の海を泳いでBeacon(灯台)をまわって垂水のクリーク(おそらく福田川を指す)にあがってくるころ迎えに行くので塩屋クラブで昼食を一緒にしよう、と条件を出す。やや突き放されるような結末は実際に一読(一聴)して確かめて欲しい。

この小説に出てくるビーコンは、正式には灯台ではなく海の中に建っており、平磯灯標と呼ばれる。平磯灯標は、明石海峡手前の平磯沖1.1キロメートルにあり、暗礁が多いこの付近の船の安全を守っている。明治26年(1893年)に鉄筋コンクリートの灯標となり、下関海峡の灯標が撤去されてからは、現存する日本最古の海中コンクリートだと噂されている。

ちなみにこの灯標、筒井康隆の「垂水・舞子海岸通り」(『筒井康隆全集 第十四巻』1984年5月 新潮社所収)にも登場する。

「この赤と黒の灯標は、海岸からはすぐ近くにあるように見えるので、ちょいと泳いで行けそうな気がする。しかしまあ、やめておいた方が無難だろう。このあたり、潮の流れは意外にはげしいからだ。」

まるで、モームの短編を踏まえたかのようだ。もちろん、読んでいても不思議はないのだが。

平磯灯標は現在は黄色に塗られており、遠目には黄色いティーポットが海に浮かんでいるように見える。

モームの時代には何色に塗られていたか知らないが、垂水にある老舗和菓子屋の杵屋には、筒井の形容する「赤と黒」に塗られた姿で表された絵画が飾られている。杵屋の売っている垂水銘菓「平磯最中」にはもちろん、この灯標が描かれている。